
西安は近年、豊かな科学教育資源の強みにより、「硬科技(Hard&Core Technology)」を手がかりとして、大学や研究機関の成果移転の新たなルートを探り、論文やラボラトリーに「眠っていた」多くの研究成果に生気を吹き込んだ。古の都・西安は、「硬科技の都」へと進化しつつある。
成果移転は「熱帯雨林方式」
「硬科技」とは何か?中国科学院・西安光学精密機械研究所の米磊副研究員によると、「硬科技」は、人工知能、航空宇宙、バイオテクノロジー、光電チップ、情報技術、新素材、新エネルギー、知的生産等の領域における高度な独自技術の総称であり、自己開発、長期的な蓄積、高レベル、模倣されにくい等の特性を持つ。「簡単に言うと、ハイテクよりもっと洗練された技術です。」
米磊氏はニュース週刊誌『瞭望』の記者に、自らの経験を語った。2012年のある日、娘が病気になり点滴を打つことになったが、看護師は子どもの腕の血管を見つけられず、何針も刺したが失敗に終わった。この件に彼は衝撃を受け、西安光学精密機械研究所の持つ技術成果を移転して、「針を刺しにくい」といった問題を解決しようと心に決めた。
2013年、西安光学精密機械研究所が社会資本と共同で創設した、起業・投資支援を行うインキュベーターである西安中科創星科技孵化器有限公司(以下「中科創星」)が、正式に設立された。「中科創星」の共同創設者の一人として、米磊氏は中科微光医療器械有限公司(以下「中科微光」)と共同で「穿刺の切り札」となる血管可視化装置を開発した。このデバイスは、血管の位置と深さを同時に識別でき、腕を血管可視化装置の下に置いてスイッチを入れるだけで、血管がはっきりと映し出される。現在、血管可視化装置は年間数千万元の利益を「中科微光」にもたらしており、製品は南米、中東等の海外市場で高い評価を得ている。
「『中科創星』は『硬科技』の支援に力を入れており、物理的空間、研究の場、投融資、人的資源、知的財産、法務サービス、起業教育等を含む便利な付加価値サービスを、様々な段階の起業家に提供しています。」と米磊氏は言う。これまで研究所の成果移転は「農地方式」であり、「雑草抜き」に力を入れていたが、「熱帯雨林方式」は、水、土壌、空気、生物の多様性を重視し、起業家に良好な環境を提供して、自由に成長させるものである。
電気メッキに代替するレーザー加工の研究に取り組んでいる西安必盛激光科技有限公司(以下「必盛激光」)の王暁飈総経理(社長)は、「中科創星」の「熱帯雨林方式」の受益者の一人である。「当社は創業時、市場になかなか入れず、一番危ない時は会社に10万元しか残っていませんでした。あの時『中科創星』が300万元融資してくれなければ、今の会社はありません。」王暁飈氏は言う。融資以外にも、「中科創星」はラボラトリーや研究設備、それに会社の登録・組織構造から起業教育までの全過程に渉るサービスも提供してくれる。2018年、「必盛激光」の売上高は4000万元を超える見込みで、2016年の10倍以上になる。
「中科創星」が設立から今日までに支援・育成した、「中科微光」や「必盛激光」のような「硬科技」企業は、240社以上に上り、市価は311億元、累積投資額は21億元になる。「硬科技」企業の力で、西安の技術イノベーションの勢いはとどまることがない。昨年1月~10月、西安市のハイテク製造業と装備製造業の投資は各々95%増と60.8%増で、経済は全体的に着実な発展を見せている。
都市提携の「新ルート」
「硬科技」は、技術イノベーションにより生産や生活における問題を解決することで、成功を収めている。昨年末に開催された2018年グローバル「硬科技」カンファレンスにおいて、参加したノーベル賞受賞学者、国内外の関連分野の専門家、技術系企業上層部、著名投資家等が揃って、「硬科技」は国内外の都市提携の「新ルート」になり得ると認めた。
西安傲視智絵公司・マーケティング部総監の牛林全氏によると、レーザーナビゲーションのコア技術を握る会社として、同社は昨年、上海艾崇機器人有限公司との提携に成功し、レーザーナビゲーション式無人搬送車(搬送ロボット)を共同でリリースした。
「知的生産の分野では、こうしたロボットが無人工場で供給・取出等の労働を行います。私たちは調整ソフトウェアで、ロボットに作業を自動的に割り当てることができます。」こうしたロボットを「雇用」するには、工場内に磁気レールを敷設する必要があるが、レーザーナビゲーション技術は、中国の同産業の発展を促し、今後の知的生産業界に技術的な支援を提供すると、牛林全氏は言う。
西安市南郊外のインキュベーターにおいて、西安知象光電科技有限公司(以下「知象光電」)の周翔CEOは目が回るほど忙しい。3Dスキャンのコア技術を掴み、会社の製品が市場で高評価を得たためである。「まもなく5G時代がやってきます、ネットワークは技術仕様が4Gよりもずっと上がり、情報の高速道路ができます、そこで『どんな車に乗るか』という問題を、重点的に考えています。」と周翔氏は語る。
米マサチューセッツ工科大学と提携して、「知象光電」は、43万枚の顔写真データベースの構築により、1万元以下の設備で迅速な3Dモデリングを可能にした。現在では、国内外のスマホ企業が次々に「知象光電」との提携を求めているばかりか、ハリウッドの映画会社が、この技術を映画の特撮に活かしたいと、同社にやってきたという。
西安の「硬科技」の発展が期待できると見て、先ごろ、ノーベル賞受賞学者のアブラム・ハーシュコ氏は、陝西の民営企業と共同で、合成ペプチドの研究を行う「中国ペプチドライブラリー」生物学ラボラトリーを設立した。「私たちが取り組むのは先端技術です、開発した合成ペプチドが多いほど、新薬開発の可能性が大きくなり、多くの患者を幸せにします。」とハーシュコ氏は語っている。
また別のノーベル賞受賞学者、ダニエル・シェヒトマン氏は、西安にノーベル賞ラボラトリーを設立し、西安理工大学と提携して、マグネシウム合金の3Dプリンティング研究を行っている。西安にラボラトリーとワークステーションを設けたのは、西安の「硬科技」の強みにより、3Dプリンティング技術の成果移転を推進するためだと、彼は言う。
「ブルーオーシャン」を目指して実体経済に貢献
業界の専門家は、人類の近代化過程において、重要な産業革命が三回起こっており、第4次産業革命は、2020年頃に起こると見ている。
米磊氏はそれを確信しており、「第1次産業革命は機械が人に代替し、第2次産業革命で人類は電気の時代に入り、第3次産業革命で情報の時代に入りました。現在、例えば重力波の発見や、生命科学研究センターの二光子顕微鏡等のように、多くの技術上のブレイクスルーは光学技術において得られています。次はおそらく、光学が推進する人工知能(AI)時代でしょう。」と語る。
彼の考えによると、「『硬科技』の技術は成熟度が高く、企業はこれを吸収又は適度に改善して使うことができ、実体経済に貢献します。『硬科技』の『硬』は、製品の卓越性やコストの強みを表しています。」
レーザー装置からスタートした「硬科技」企業「必盛激光」は、今ではレーザークラッディング装置の生産だけでなく、設備消耗品——合金鉄粉の技術問題でもブレイクスルーを果たした。中小企業にサービスを提供した後、同社の創設者・王暁飈氏は、会社の製品を製造業の「ブルーオーシャン」に投入し、国産の大型航空機や高速鉄道の油圧部品に加工サービスを提供したいと考えている。
西安交通大学・高性能製造装備協同イノベーションセンターの上級エンジニアである王俊嶺氏は、「硬科技」は高性能装備製造業の礎石であり、実体経済振興の駆動力でもあると考えている。世界金融危機の後、先進国が次々に「再工業化」戦略を打ち出したところから見ると、先端技術の優位争いを特徴とする競争が、やはり今後の世界経済発展の主戦場である。
より多くの技術の成果移転を支援するため、「中科創星」は産業インキュベーターのさらなる充実を進めている。陝西光電子集成電路先導技術研究院では、スタートアップ企業に光学実験用研究施設をレンタルする仕組みを整えつつある。起業支援を受けている企業責任者たちの話によると、実験設備は非常に高価なため、こうした施設をレンタルできると、起業コストが減り、研究成果の移転が速く進むという。 「研究成果の移転率が上がれば、経済発展の確実な支えになり、『追い越し』が実現します。」米磊氏は言う、2000年以上前に西域に派遣された前漢の外交官・張騫が葡萄等の農作物の種を持ち帰り、国の人々の生活に影響を与えたように、現代の「硬科技」は、奇跡の種なのかもしれない。
参照元:http://news.xiancn.com/content/2019-01/20/content_3415539.htm
(翻訳の際に、内容が多少編集されていることがあります)